大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

浦和地方裁判所 昭和42年(ワ)594号 判決 1968年7月29日

原告

高橋利幸

被告

鈴木利

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「被告は、原告に対し、金二、〇〇〇、〇〇〇円及びこれに対する昭和四〇年一月八日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求原因として次のとおり述べた。

一、事故の発生

訴外上久保栄は昭和四〇年一月七日午後一時頃雇主である被告所有の大型貨物自動車(群一せ四一〇六号)を運転して与野市下落合八一五番地先国道一七号交叉点を北進中、横断歩道を自転車に塔乗して東進横断中の原告をその場に跳ねとばし原告をして入院加療五〇日を要する左膝下腿副部硬度挫滅創(左大腿切断)等の重傷を負わせた。

二、責任

被告は、被外上久保を自動車運転者として使用し、且つ加害車である右大型貨物自動車を所有する者であるから、自動車損害賠償保障法第三条により原告が蒙つた損害を賠償すべき責任がある。

三、損害額

(一)  得べかりし利益の喪失

1  原告は、左大腿部を切断したから、これは労働基準法施行規則別表第二身体障害等級表の第四級第五号に該当し、したがつて昭和三五年二月二日付労働省労働基準局長通達別表第一により労働能力喪失率は九二%である。

2  昭和四一年度日本統計年鑑によれば、常用労働者三〇人以上の事業所の昭和四〇年度全国平均現金給与額は一ケ月金三九、四〇〇円である。

3  我国における大多数の事業所の従業員停年制による停年は満五五才であるから、稼働年数は満一九才から五五才までの三六年間である。

4  原告は事故当時九才であつたから、九才から五五才までの間の民法所定法定利率年五分の割合による利息金を控除する。

5  よつて原告の得べかりし利益の算定は、以下の式により求められ、金四、七四五、一九二円となる。

<省略>

(二)  慰藉料

原告は生れもつかぬ不具になり一生を不自由な身体で送らねばならなくなつたので、その慰藉料としては金五〇〇、〇〇〇円を相当とする。

(三)  控除すべき額

原告は強制賠償保険により金九五八、〇〇〇円を取得した。

(四)  損害賠償として請求する金額

原告が本件事故により蒙つた全損害額は、逸失利益金四、七四五、一九二円に慰藉料金五〇〇、〇〇〇円を加えた合計額金五、二四五、一九二円から強制賠償保険により取得した金九五八、〇〇〇円を控除した残額金四、二八七、一九二円であるが、原告はそのうち二、〇〇〇、〇〇〇円を請求する。

と述べ、抗弁に対する答弁として

抗弁事実中、第一、三項はいずれも否認、第二項は不知、第四項は争う。

と述べ

立証として甲第一ないし第八号証を提出し、原告本人尋問の結果を援用した。

被告は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として

請求原因中、被告が訴外上久保栄を雇つていたこと、被告が大型貨物自動車(群一せ四一〇六号)を所有していたこと、原告主張の日時・場所において右上久保が運転中の右貨物自動車と原告が塔乗中の自転車とが衝突して原告が重傷を負つたことは認める。

と述べ、抗弁として

一、本件事故の発生は、専ら原告の過失に因るものであつて、訴外上久保にはなんら過失がない。すなわち上久保は浦和市方面から大宮市方面へ向け進行し、途中本件事故現場である与野市下落合八一五番地先国道一七号交叉点にさしかかる五〇メートルないし六〇メートル手前で信号機が赤から青に変つたのを確認して徐行通過中、原告は停止信号を無視し与野市本町方面から与野駅方面へ向け交叉点に突入し、被告の車の進行方向で交叉点の中心点より先、被告の車の前部は交叉点外に出た位置で原告の自転車を被告の車の後部車輪に近い部位に衝突させ、原告自らは転倒し重傷を負つたものである。

二、それで上久保は浦和地方検察庁昭和四〇年第三、一一五号業務上過失傷害事件において嫌疑不十分として不起訴となつた。

三、本件被告の自動車は、本件事故当時車体検査を受けてから僅か二ケ月位しか経過しておらなかつたので、右自動車には構造上の欠陥または機能に障害がなかつた。

四、よつて被告は、原告が本件事故に因り蒙つた損害を賠償する責任はない。

と述べ、

立証として証人鈴木綱夫の証言を援用し、甲号各証の成立はいずれもこれを認めた。

当裁判所は職権により被告本人尋問をした。

理由

被告が大型貨物自動車(群一せ四一〇六号)を所有していること、被告の雇傭する運転手訴外上久保栄が昭和四〇年一月七日午後一時頃被告所有の右貨物自動車を運転して浦和市方面から大宮市方面へ向け進行中、途中与野市下落合八一五番地先国道一七号交叉点において、右自動車と与野市本町方面から与野駅方面へ向け原告が塔乗運転していた自転車とが衝突し、原告が重傷を負つたことは当事者間に争いがない。

そこで被告の抗弁につき判断する。

一、〔証拠略〕を総合すると、上久保は時速約二〇ないし二五キロメートルで前記交叉点にさしかかる約六〇メートル手前で点滅信号機が赤から青に変つたのを確認してそのままの速度で交叉点を道路中央線の直ぐ左側を通過北進中、折柄原告は同交叉点を信号機が停止信号(赤)になつているのを確認せず且つ道路左右(南北)の交通状況を確認せずに与野市本町方面から与野駅方面へ向け自転車に塔乗して東進して突入し、被告の自動車の前部が交叉点から出てその後部が交叉点内に残つていた位置において自動車のボデイに衝突して転倒し、原告の左足の上に自転車が倒れ、自転車の上に自動車の後輪が乗り上げて停車したことが認められる。原告本人尋問の結果中右認定に反する部分は前顕証拠と対比してたやすく措信し難く、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。右認定事実によると、本件事故の発生は専ら原告の一方的過失に因るものであつて、本件事故発生につき訴外上久保にはなんら過失がなかつたものと解するを相当と認める。(なお〔証拠略〕によると、上久保は本件事故のため業務上過失傷害事件として浦和地方検察庁検察官に送致されたが嫌疑不十分として不起訴処分となつたことが認められるが、右事実によつても上久保は本件事故発生につき無過失であつたことが推定される。)

二、〔証拠略〕によると、本件被告の自動車は本件事故当時車体検査を受けてから僅か二ケ月位しか経過しておらなかつたので、右自動車には構造上の欠陥または機能に障害がなかつたことが認められ、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

三、よつて被告は、自動車損害賠償保障法第三条但書により、本件事故により原告が蒙つた損害を賠償する責任はない。

以上の次第で、原告の本訴請求はその余の判断をなすまでもなく理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 松澤二郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例